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豪華キャスティング、注目の映画化
豪華キャスティングで映画化、9月17日に公開が決まっている小説、吉田修一『怒り』(上下巻)
2010年に、妻夫木聡主演で映画化された『悪人』の記憶があまりにもまだ鮮明に記憶に残っているのに、再び李相日監督によって映画化されるとあり、今回も原作を手にしてみた。
しかも映画では、前作に引き続き妻夫木聡がキャスティングされている。『悪人』でまさしく悪人を演じ、日本アカデミー最優秀主演男優賞を獲った彼。『怒り』での演技も要注目である。
(本記事最後に、配役予想あり。)



まずは率直な感想
人を信じることが怖くなった。人が持つ狂気、怒りにあがらうことはできないと感じた。一方で、人を信じないことで自分や相手にもたらす傷も、未来まで深く心に影を落とすものなのだと思った。
上下巻を3日間計6時間ほどで読んだ。最後の70Pほどを一気に読んだ喫茶店を出ると、もう夏がそこまで来ているのに外の空気に触れて鳥肌が立った。拳をぎゅっと握ると、指先が冷え切っているのがわかった。
現実的なことも考えた。どうやって信じていい人と信じてはいけない人を見分けたらいいのだ?
自分にどこまでの狂気や怒りが潜んでいるのだろうか。
他人や自分の狂気や怒りを目の当たりにしてしまったら、どうしたらいい?
その時「死」の臭いのしない逃げ道はあるのだろうか、その道を自分は見出せるのだろうか。



あらすじ(結末を除いてネタバレしてます!)
物語は、四つの話が並行して進む。
一つは一年前の凶悪殺人事件の犯人を追う刑事二人の話。
一つは浜崎で暮らす父子の話。
一つは沖縄の波留島に逃げてきた母子の話。
一つは都内に住むあるゲイカップルの話。


●八王子で一年前に起きた夫婦殺害事件を、北見とその上司である南条の二人の刑事が追っている。目撃情報から、早い段階で犯人の名前が”山神一也”であることや顔などの特徴はわかっていたものの、捕り逃がしていた。一年経った今では、”山神”は整形をしている可能性もある。テレビの公開捜査番組で異なるタイプの顔写真をいくつか公開し、何とか”山神”の居場所を掴もうと必死になっている。

●漁港町の浜崎では、過去の恋愛の失敗が小さな田舎町であっという間に広まり、町に居づらくなって歌舞伎町に二度目の家出をした娘の愛子を、父の洋平が町に連れ帰るところから話が始まる。父子ともに、自分たちは世間一般の幸せには掴めないんじゃないかと思っているとき、”田代”と名乗るよそ者の男が漁港にやってきて働き始め、愛子と親しくなる。二人が親密な中になり同棲をはじめるころ、洋平はテレビの公開捜査番組を見て、その特徴から田代が一年前の八王子夫婦殺害事件の犯人”山神”なのではないかと疑い始める。愛子の耳にも話は届き、父子そろって信じようとするのだが・・・。

●沖縄の波留島では、母の男へのだらしなさゆえに福岡から夜逃してきた母子が、島のペンションで働き暮らし始める。明るくまっすぐ性格の高校生の娘、泉は、同じく純朴な同級生の辰哉に好意を抱かれる。ある日二人が今では誰も住んでいない離れの島にボートで行き、泉が一人で島を歩き回っていると、沖縄本島で日雇いをしては島に戻り廃墟で野宿をしているという年上の男性”田中”と知り合う。後日、本島で偶然に鉢合わせた三人は、居酒屋で飲んだくれるのだが、その帰り道ある悲劇を泉が襲う。辰哉の自己嫌悪を慰めてくれた田中と辰哉は友達になり、田中は辰哉のペンションで働き始める。互いに打ち解けあった三人だったが、ある日泉は田中が暮らしていた廃墟であるものを見つけてしまい、田中を疑い始める・・・

●都内では、大手広告代理店に勤めるゲイの優馬が、発展場で抵抗する男を無理やり犯す。その男は”直人”と名乗るが、携帯も持っておらず自分のほかに知り合いもいないようだ。なんとなく直人を放っておけず毎日家に泊める日々が続き、自分の兄弟やホスピスにいる母親にも直人を紹介し、家族ぐるみの付き合いとなる。週末毎にゲイ仲間とクラブで遊び、Twitterや出会い系サイトでその日の夜の相手を探す日々を送っていた優馬だったが、直人とさえいれば何もいらないと思うまで、直人と癒しあえる仲になっていた。そんなある日、優馬は公開捜査番組をテレビで見て、八王子夫婦殺害事件の犯人と直人が同じほくろの特徴を持っていることに気づく。直人にこれまでの生い立ちを聞き出せないままでいた優馬は、ゲイであることの世間への薄暗い気持ちに加え、直人を信じていいのか葛藤が加わり、自信を失っていく・・・。

キーワードは過去を明かさない【よそ者】
・・・どの話の、どの【よそ者】が犯人の”山神”なのか。どんどんページを捲るスピードが速くなった。
ちなみに私は、すべての【よそ者】が”山神”で、時系列が異なっているのではと推測していたのだが―。
浜崎、波留島、東京、三つの町/街で、過去を明かさぬ【よそ者】の男を、”山神”なのではないかと疑う者がいる。彼らは【よそ者】を信じたいのに信じれず、”山神”の影におびえ翻弄され、事件の当事者ではないのに"山神"の存在に人生を変えられてしまう。
キーワードは、『過去を明かさない【よそ者】が与える人への不信感』。
その存在は、そこにいるだけで相手に『こいつは信じるに値するものなのか』という問いを抱かせてしまう。他人を信用することは難しい。人は誰しも裏切られたくないからだ。なぜなら、裏切られることは自分は信用するに値しない人間なのだという、受け入れたくない事実を突き付けるから。さらに信用すべきか否かの狭間に立ったとき、人はあることに気づく。『自分に自信がないからこんな思いを抱くんだ』ということを・・・。

読後、切に願わずにいられない。愛子や田代、泉や辰哉のような若い人間が、人の裏切りに負けず、たくましく生きていくことを。傷つけられても立ち上がること、それを支えてくれる人がそばにいてくれることを。
人を信じることをやめないことを。

勝手な映画のキャスティング予想
(優馬と直人はすでに公表されている(6/24現在)。)
●妻夫木聡・・・   優馬
●綾野剛・・・     直人
●渡辺謙・・・     洋平
●宮崎あおい・・・    愛子
●松山ケンイチ・・・ 田代
●森山未來・・・    田中
●広瀬すず・・・    泉